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やくそく ①


★ジュゴン海寿 と★ボスゴドラ百ちゃんのおはなし




そのかみさまは海辺の村の嵐からうまれました。
たくさんの命をうばい、またあたえたその神を、ひとびとは海寿(みこと)様とよんで恐れうやまいました。

ひとびとのねがいからうまれた海寿でしたが、海寿はうまれたいみを知りませんでした。
何も知らなかったので、しばらくはすることもなく、冷たい海をただよっていました。
そのうち、からだの真ん中がとてもくるしくなって、夕焼け色のひとみからつめたいものが流れおちました。
そうして海寿がくるしくてさけぶと、海はまた荒れました。


なんどかそんな日々をすごしていると、ちじょうにきれいな社をみつけました。
社のそばにはひとがあつまっていて、海寿はそこに住むことに決めました。
新しい家はひとの声がして、なんだかうれしくなりました。

「ねぇ、お前たち、なぜ顔をふせているの?」

「ねぇ、私にも話しかけておくれ」

けれど、いくら話しかけても海寿に語り返すことはありませんでした。
まるで海寿のことはみえていないようでした。


ただひとつたのしいこともありました。
海寿が泣いていると、うみのなかにひとがやってくるのです。
いつもちがうひとでしたが、いちように大きな石をくくりつけていました。
そのときばかりはこちらを見つめ、なにかをさけんでくるのです。

「いらっしゃいひとの子。やっと話しかけてくれたね」

ただ、海の中ではなにを話しているのかはわかりませんでした。



そんなある日、社の中からひとの祭りを見ていると、ふしぎな御子にであいました。
はじめて見る、まっかな燃えるような、あかい目をしたこどもです。
ひとのわから少しはずれたそのこどもが、海寿はなんだかきになってしかたありませんでした。

「ねぇ、私のことが見えてるの?」

思いきって話しかけると、びくりとふりかえりこちらを見つめました。
ずれることなく、まっすぐに向けられたひとみに、海寿はどきどきしはじめます。

「あなたは、だれですか?」

小さくうなずいてそう尋ねてきたその声に、なぜだかいたたまれなく、そわそわします。

「わ、私は海寿。ここの社にすんでいるの。」

「みこと、さま…?」

そのこどもが口をひらいて、名を呼ばれたとき、めのまえがちかちかと輝くようでした。


「そう、そうだよ。君はなんて名なの?」

「ぼくは…百、」

言い終わるやいなや、海寿はその手をつかみました。
そしてそんな自分におどろきながらも、ふるえるからだは止まりません。

「百!!いちしろ…!あぁ良いな名だね、とても、すてき…っ!」

気づけば海寿は百をつれて、ふかい海のさらに奥、海寿がうまれたばしょへもどっていました。
だきしめた百は、とてもあつく、海寿はくらくらと酔ったように名を呼びました。
とても幸せで、ひどく愛おしく、こんな気持ちははじめてでした。

「なんでだろう、ねぇ百、百、もっと話して、もっと触らせて…」

「海寿さま…」

海寿は、この時の百の顔を覚えていません。
なぜなら、あたたかいものが目から絶えず流れ出て、前がよくみえなかったからです。
ただ、たどたどしく話す百の声だけは、忘れることがありませんでした。




どのぐらいそうしていたかは定かではありません。
百のむねに顔を押しつけて、なみの音とはちがう、やすらぐ音をきいていました。

「海寿さま、ぼくはもう帰らないと」

きゅぅ…っと、いたみが心をぬけます。

「帰る?なぜそんなことをいうの?」

そう尋ねると、百はひどくかなしそうな顔をしました。

「こどもは、帰らなくちゃならないんです。おとうさんと、おかあさんが心配します。」

うつむく百をみると、海寿はもっと苦しくなります。

「…わかった。じゃあこどもじゃなくなればいいんだね」

「…?」

「百がこどもじゃなくなったら、私がむかえにいくから!」

それはいい考えだと、いいつつ海寿は嬉しくなりました。
そうです、おとなになればずっと帰らなくてもいいんです。

「約束だよ、百。」

それは海寿がはじめてたてた誓いでした。











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